Jホラー「仄暗い水の底から」:母親の強さともう一つの結末
鈴木光司原作の『仄暗い水の底から』は、じっとりと心に染みるような恐怖と母娘の物語を描きつつ、都市伝説的な怖さを放つ名作です。このレビューでは、原作の雰囲気を存分に感じつつ、映画で描かれるもう一つの結末に焦点を当ててみたいと思います。
原作と映画の違い:結末の見どころ
原作では、母親と娘が見舞われる恐怖の行き着く先にはっきりとしたオチはなく、恐ろしい疑惑が染みのようにじわーっと広がって何とも言えない不気味な読後感が漂います。しかし、映画はそれとは異なり、母親の選択によって展開が一層ドラマティックに進むのが特徴です。特に、母の「娘を守るために犠牲を払う」という姿勢が、心を打つものとして描かれます。終盤のエンディングでは、ホラー要素を超えた母性の力強さが感じられ、原作にない深い余韻を残します。この違いが映画版の見どころであり、観客の心に刻まれるポイントでしょう。
母親としての葛藤
『仄暗い水の底から』では、ひとりの母親が生活に追われつつも娘を懸命に守ろうとする姿が描かれます。新居に引っ越した直後から起こる怪異は、彼女の身にのしかかる現実の困難と、奇妙にリンクしています。普通の母親なら誰しもが抱く「子どもを守りたい」という思いが、怪奇現象と絡み合い、ストーリーの中で際立つ感情を生み出します。この現実とホラーが交差する設定は、映画でも丁寧に踏襲されています。
原作の雰囲気を見事に再現
映画は原作の持つ仄暗い雰囲気を巧みに映像化しています。湿っぽい廊下、薄暗い室内、滴り落ちる水音といった演出は、観る人の神経をじわじわと蝕みます。鈴木光司が描いた「仄暗さ」と、その中に潜む人間ドラマの深さを見事に再現している点で、原作ファンも納得の仕上がりではないでしょうか。
もう一つの結末をどう捉えるかで賛否が分かれそうですが、私個人としては、最後のエレベーターのシーンで霊となった行方不明の女の子を黒木瞳演じる叔美がギュッと抱きしめるシーンでぐっと来て涙が出ました。女の子の母親を求める寂しさと叔美の娘を思う気持ちが通じ合ってしまったこと、そして叔美が娘を思うが故に自ら犠牲となることで今後の娘の人生を守ろうとする決意が感じられました。そして叔美は霊となった女の子に連れていかれることをまんざら悪くないと思っているのではないか、何故なら叔美も娘から求められることを渇望していたから。仕事も結婚もうまくいかなかった人生、例えそれが幽霊でも求められることが嬉しかったんじゃないかって思って原作にはないホラー以外のヒューマン的な要素を感じました。
感想と結論
映画『仄暗い水の底から』は、単なるホラー映画に留まらず、母親という立場での葛藤や親子の愛情を描いた物語です。原作とは異なる結末で締めくくられることで、より心に残るインパクトをもたらします。「怖いだけじゃない」という点が、観る人の心を深く揺さぶり、感動すら呼び起こすのです。もし、母親が取った選択の先にあるものを知りたいなら、この映画は必見。あなたも、彼女の決断に心打たれることでしょう。アマゾンプライムで配信中です。是非見てみてください。