笑顔が怖い…新感覚ホラー「スマイル」

笑顔がこんなに怖いなんて…映画『スマイル』はホラー映画好きなら見逃せない一本です。この作品は、2022年に公開されたアメリカのホラー映画で、監督パーカー・フィンの初長編作品。元々は短編映画『ローラは眠れない』がベースとなっており、その斬新なアイデアをさらに練り上げて作られました。

あらすじ:不気味な笑顔に取り憑かれる恐怖

主人公のローズ・コッターは、精神科医として日々患者と向き合う仕事をしています。ある日、診察を受けに来た若い女性が、「自分以外には見えない何かに追われている」と怯えた様子で話し始めます。そして突然、不気味な笑顔を浮かべたまま衝撃的な方法で自ら命を絶ってしまいます。

この事件を目撃したことをきっかけに、ローズの周りでも奇妙な出来事が次々と起こり始めます。彼女の同僚や知人たちが、異様な笑顔を浮かべながら彼女に迫ってくるのです。自分が何かに呪われたのではないかと疑念を抱いたローズは、調査を進めるうちに、この恐怖が過去に同じような現象を体験した人々へと連鎖していることを知ります。

ローズは、自分の命が尽きる前にこの呪いの原因を突き止めようと奔走しますが、次第に現実と幻覚の境界が曖昧になり、精神的にも追い詰められていきます。彼女が最後に対峙する“スマイル”は、目を背けたくなるほどの恐ろしさ。この恐怖から逃れる方法は果たしてあるのか――?

「笑いは攻撃」の恐怖

映画『スマイル』は、日常的な「笑顔」が恐怖の象徴として描かれています。通常なら安心や友好の象徴である笑顔が、この映画では「攻撃」の形となり主人公を追い詰めます。登場人物たちが見せる笑顔の歪み方は異様で、まるでこちらを嘲笑うかのように迫りくるシーンには思わず背筋が凍ります。特に、ローズの身近な人物たちが次々と歪んだ笑顔を見せる場面は、観客にも逃げ場のない恐怖を感じさせます。

理不尽な恐怖が観客を支配する

本作の呪いがこれほど怖いのは、その「解きようがない」点にあります。ローズは全力で解決策を探りますが、呪いには一貫して逃れられないルールが存在し、どれだけ足掻いても結末は避けられません。

見ている側は、ローズがなんとか呪いを解いてほしいと願う気持ちと、どこまでも追い詰めてくる呪いへの圧倒的な無力感に飲み込まれていきます。彼女の努力がすべて無意味に終わるのではないかという絶望感と、理不尽な運命に抗う姿の悲壮感が、観客の心を揺さぶります。この呪いは明確なルールを持ちながらも、その背後にある意図や目的が曖昧。だからこそ恐ろしいのでしょうね。

さらに、呪いはただ命を奪うだけでなく、精神的にも追い詰める仕組みになっています。被害者たちは、徐々に周囲との信頼を失い、孤独と疑念の中で壊れていきます。この孤独感が作品全体に影を落とし、観客に「自分も同じ状況になったら」と想像させる恐怖を植え付けます。理不尽な呪いの構造と、そこに抗う術のなさが、本作のホラーとしての完成度を高めていると言えるでしょう。

可視化された“スマイル”の正体の衝撃

ホラー映画では「見えない恐怖」が定番ですが、『スマイル』では“スマイル”が最後に姿を現します。ローズのトラウマが可視化されたもののようですが、そのビジュアルは、深層心理から引きずり出された悪夢そのもので、観客に強烈なインパクトを与えます。最近のホラー映画のなかではこのビジュアルが一番怖かったです。

そして迎えるラストシーン――それはまさにホラー中のホラー。ローズの命がけの行動もむなしく、呪いは最悪の形で彼女を飲み込みます。希望の光が見える瞬間があるだけに、その結末は一層衝撃的です。救済やカタルシスを期待していた観客は、その期待を裏切られる形で恐怖と絶望の中に置き去りにされてしまうのです。

映画『スマイル』は、この容赦のないラストを通して、ホラー映画の枠を超えた絶対的な恐怖を見せつけてきます。観終わった後も笑顔という行為が何か不気味なものに思えてくる、そんな感覚を味わうことになるでしょう。すでに続編が公開決定。「スマイル2」が、今秋アメリカで公開予定です!