装丁が怖い!物語がもっと怖い!究極のホラー体験、矢樹純「撮ってはいけない家」

古びた家に潜む得体の知れない恐怖

矢樹純さんの新作『撮ってはいけない家』は、読者を背筋が凍るような恐怖の世界へと誘います。舞台となるのは、長い歴史を持つ「旧家」や「蔵」。そして、その家に隠された「因習」と「忌まわしい秘密」といったホラー好きにはたまらない要素がふんだんにちりばめられています。
今回は矢樹純さん最新作「撮ってはいけない家」についてご紹介します。

ホラーとミステリーの絶妙な融合

本作は単なるホラーにとどまらず、推理の要素が巧みに絡み合っています。散りばめられた謎が、物語の終盤に向けて徐々に繋がり始め、まるでパズルのピースが一つずつはまっていく感覚を味わえます。推理好きな読者には本作はぴったりです。断片的に提示される情報をつなぎ合わせ、自分なりの解釈を楽しむスタイルは、ミステリーの醍醐味でもあります。一方で私のような純粋にホラーとして楽しみたい方はやや煩雑な印象を受けることもあるかもしれません。忌まわしい因縁とも言うべき呪いの正体は「得体のしれないナニカ」なのかそれとも「実体のあるヒトコワ」なのか…。その曖昧さこそが、本作『撮ってはいけない家』の肝と言えるでしょう。ホラーとしての「説明できない怖さ」と、推理サスペンスとしての「合理的な謎解き」の間を行き来する展開は、読者の想像力を掻き立てる一方で、心地よい不安感を残します。

装丁と写真が生む視覚的な恐怖

なんといってもこの本で語らずにはいられないのが、その装丁の不気味さです。特に表紙の蔵の写真は本文中に描かれる見てはいけない映像の中に出てくる「蔵」そのもの――。ただの本の表紙なのに不気味な生命感をまとい、まじまじと見てはいけない、けれど目を離せないという奇妙な引力を感じさせます。さらにページをめくると現れる中表紙。そこに挿入された写真が、不気味さをさらに倍増させます。単純なモキュメンタリーの手法でありながら、リアルさが恐怖心を煽り、物語の世界観に一気に引き込まれてしまう仕掛けが巧妙です。そして極めつけは、本の帯。ぐるりと一周「怖い」とだけ繰り返し書かれたそのデザインは、一見して滑稽なようでいて、異様な執着を感じさせます。この帯に触れた瞬間、「これは買わずにはいられない」と思わされた方も多いのではないでしょうか。続きが気になる、ただそれだけの衝動でページをめくってしまう。『撮ってはいけない家』は、ただのホラー小説にとどまらず、「怖い」という感情そのものを視覚的に具現化した作品と言えます。その装丁や写真を通じて、物語を読む前からすでに作品の中へと足を踏み入れてしまっている――そんな錯覚を覚えさせる稀有な一冊です。この恐怖体験、ぜひその目で確かめてください。