ホラーとミステリの出会う瞬間 三津田信三「みみそぎ」の恐怖体験
五感シリーズ第二作目『みみそぎ』
私の大好きな三津田信三さんの「みみそぎ」が角川ホラー文庫から文庫で発売されました。本作は「五感」シリーズの二作目で、前作は映像化もされた『のぞきめ』で話題となりました。今回も三津田さんの得意とする至極のホラーミステリとなっていて、読者を深い恐怖に引きずり込む力を持っている作品です。
メタ系ホラーの真骨頂
三津田さんの作品には、フィクションとノンフィクションの境界が曖昧になる仕掛けが随所に見られます。『みみそぎ』でもそれは健在で、どこまでが物語でどこからが現実にリンクしているのかを考えさせられるうちに、じわじわと不安感が押し寄せてきます。三津田さんの作品をいくつか読んでいるファンにとっては、「これってもしかして…?」と思わせるような巧妙な仕掛けがいくつも散りばめられていて、「ここにつながるのか~!」と、思わずうなってしまうほどです。彼の過去作との関連性や繰り返し現れる怪異、そしてちらちらと見え隠れするおなじみの登場人物もまた、ホラーを構成する不気味さを持っていて、読めば読むほど「障り」があるのではないかと本気で怖くなってくるのです。
ホラーとミステリは融合するか
こちらの作品の中で三津田さんは、ホラー作家が読者を怖がらせる最も理想的な手段は、「正体の分からない未知の何かに覚える圧倒的な怖さを否応なく突きつけること」だと書いています。それではミステリとは何かと言いますと「未知の謎を合理性と知性で解き明かすこと」です。両者はみごとに相反していて、ホラーミステリというジャンルは無謀だとも思えます。この作品の中でも三津田さんは「怪異」はその「正体」が明かされることで急速にその影響力が霧散するものだと説明しています。世の中にもホラーミステリの作品は数多くありますが、傑作と言われるものは、この「謎」と「謎解き」のバランスが秀逸なものなのではないでしょうか。ホラーの要素を残しつつ、謎が解明されるところもあるからぐいぐい引き込まれる。そんな吸引力のある作品が傑作と言えそうです。読者は怪異の背後に潜む謎に恐れを抱きつつ、それを合理的に解明する過程にも没頭します。この相反する感情が絶妙なバランスで絡み合い、作品に独特の魅力を生み出しているのです。
初心者でも十分怖い
先ほどは過去作を読んでいる読者には楽しめると書きましたが、もちろん、三津田作品を初めて読む人にとっても『みみそぎ』は十分に恐ろしい読書体験となります。本の中では過去の作品と因縁が簡潔に説明されますが、少ししか明かされないのでそれがまた「ちら見せ」の心理効果となり、思わずあなたも過去作に手を出してしまうこと間違いなしです!
文字から浮かび上がる情景
三津田信三さんの恐ろしさの本質は、その文体にあるような気がしています。特に効果音の描写がうまいので、文字を追っているだけなのに、まるで映像を観ているかのように情景が頭に浮かびます。そしてその情景があまりにも生々しく、思わず背筋が凍ります。そしてこの『みみそぎ』では文字の形にも凝ってあるので、まさに五感で楽しめる恐怖を提供してくれます。
最後に
『みみそぎ』は、三津田信三さんのホラーを初めて体験する人にも、長年のファンにもおすすめできる作品です。そして、ホラーとミステリという一見矛盾するジャンルを見事に融合させた三津田さんは、まさに唯一無二の作家と言えるでしょう。五感シリーズとしての広がりも含め、今後の展開が楽しみになります。