中田秀夫監督作品ホラー映画特集:#1「女優霊」


映画『女優霊』レビュー:ジャパニーズホラーの原点と貞子のルーツ

日本のホラー映画界において、「中田秀夫」監督の名前を知らない人はいないでしょう。その彼の初監督映画が1996年公開の『女優霊』です。本作は、のちに世界的ヒットを記録する『リング』の前哨戦とも言える作品であり、その不気味な映像や音楽は、現在でも語り継がれるジャパニーズホラーの原点と言えるでしょう。

貞子の原型とも言われる”髪の長い白い服の女”

『女優霊』を語る上で欠かせないのが、本作に登場する長い髪の女のビジュアルです。当時、めちゃくちゃ怖かった!白い服をまとい、じわじわと忍び寄るその姿は、のちの『リング』に登場する貞子の原型とも言われています。突然現れるのではなく、初めは目の端に「ん?」という感じで現れて、次第に「やっぱり何かいる…」と気付かされる過程や、徐々に不気味さを増していきながら存在感を示していくその手法は、日本独特のホラー演出として確立されていきました。派手な音や照明で「わっ!」と驚かせるのではなく、「じわじわと怖い」のです。

耳にこびりつく不気味な音楽

個人的に、中田秀夫監督作品の怖さを演出する重要な要素のひとつに、音楽があると思っています。耳から離れない不気味な音楽がどの作品にもあると思います。日本的な静謐さの中に、繰り返される独特な旋律を持った不気味な音楽。ただ聞いているだけなのになんだか不安になってくる、そんな感覚になりますので、皆さんも実際に視聴して体感してみてください。

幼少期のあいまいな記憶から生まれたホラー

「女優霊」の脚本を手掛けた髙橋洋は、幼いころにテレビで、題名の分からないホラー映画の予告を見た経験から着想を得ていると話しています。断片的に覚えているけど、作品名や詳細は思い出せない——この“記憶の曖昧さ”。私たちにもありますよね。劇中では、主人公の新人監督・村井俊男が撮影したフィルムの中に映る、意味不明で得体の知れない映像。これこそが「あいまいな記憶」としての本作の恐怖を形作る重要な要素です。そしてその映像がなんとも不気味なんです。この「なんとも言えない不気味さ」は、後の『リング』に登場する呪いのビデオにも受け継がれており、日本のホラー映画における“映像そのものの怖さ”という概念を確立させたといえるでしょう。

俳優たちの独特な雰囲気

もうひとつ、この女優霊の怖さを演出している重要な要素の一つを書いておきます。それはキャストの持つ独特な雰囲気と存在感です。普通の映画ならば、俳優の表情や演技に親しみを感じるものですが、『女優霊』ではそれが逆に恐怖を生み出す要素になっているように思います。彼らの独特な雰囲気や、どこかぎこちない表情が、物語の不気味さをより強調しています。この「女優霊」の映像自体が「やばいもの」に感じてくるあたり、キャストの重要性を感じずにはいられません。

女優霊とは何だったのか?

本作のタイトルにもある「女優霊」とは一体誰なのか。その答えは明確に語られることはありません。解釈は視聴者に委ねられているとするならば、村井が幼少期に観た映像の中に既に存在していた、という点がヒントになるかもしれません。幼少期に一度、女に出会っている、もしくは魅入られているとするならば、村井とは縁の深い人物なのか?もしかすると時空を超えた生霊が、監督の人生に付きまとっている可能性は?あるいは、この撮影現場になんらかのいわく(監督と女優たちとのいざこざ?)で、棲みついている呪いとも悪霊ともいえるものなのか?視聴後、考察が膨らみ、前日譚とかできそうだなって思いました。

まとめ:まさにジャパニーズホラーの傑作

『女優霊』は、ジャパニーズホラーの礎を築いた作品のひとつであり、中田秀夫監督の才能が光る一作です。のちの『リング』にも受け継がれた映像の怖さや、不気味な音楽、そして独特のストーリー構成——どれをとっても、日本ホラー映画史において欠かせない作品であることは間違いありません。怖い映画が好きな人はもちろん、日本ホラーの原点を知りたい人にも、ぜひ一度観てほしい一本です!