
中田秀夫監督作品ホラー映画特集:#5『劇場霊』
はじめに
中田秀夫監督作品、第5回は『劇場霊』。2015年に公開されたホラー映画で、主演は当時AKB48の島崎遥香さんでした。企画が秋元康さんということもあり、AKB48のメンバーを主軸にしたプロモーション的な要素が強かった印象を受けます。やはりホラー映画として評価すると、なかなか厳しいものがありますね。
チープな雰囲気と演出の弱さ
まず、本作全体にチープな雰囲気が漂っています。人形を題材にしているせいなのかなんなのか、理由はよくわかりませんが、映画の冒頭が「何時代のどこの人?」みたいな洋館?で女学生風の制服の姉妹とお金持ちのお父さんがよく着ているような高級そうなガウンを羽織った中年の男性が出てきます。
「・・・・・・。」冒頭から入っていけません!キャストの演技も、アイドル映画の色が濃く、登場人物に感情移入することもできないまま・・・。劇中ではアイドル同士の競争や嫉妬といった要素が描かれていますが、これをホラー映画の力で曖昧に表現しようとしたように見えます。アイドル映画としての側面を持たせつつ、ホラーとしての見せ場を作ろうとした意図は理解できますが、そのどちらも中途半端になってしまった印象です。そのため、物語が進んでも共感できるポイントがほぼゼロで、観客が置いてけぼりになってしまった感覚が拭えませんでした。
人形の不気味さとホラーの可能性
ここまで酷評してしまいましたが、良かったところもあります。本作のホラー要素として登場する人形のビジュアルは不気味さ満点!そして、人形の動き方にも注目すべき工夫が見られます。ただ静止しているだけではなく、ゆっくりと異様な角度で首を傾けたり、関節の曲げ方や動き方に特徴が見られ、細かい演出が施されていました。その動きには計算が感じられ、「どうしたら怖く見せられるか」という研究の跡がうかがえます。特に、ふとした瞬間に視線が変わっているように錯覚させる演出や、人間の動きとは異なる不自然なぎこちなさが強調されており、視聴者にじわじわと不安を与える仕掛けが施されていました。
また、音響面でも人形の存在感を高める工夫がされています。動く瞬間に発せられるかすかなギシギシという軋み音や、不気味な人形の声がシーンの緊張感を増幅させ、視聴者の恐怖を煽る役割を果たしていました。もし本作のホラー演出がもっとこの方向性に振り切れていたら、より印象的な作品になったかもしれません。
まとめ
総じて、『劇場霊』はアイドルのプロモーション映画としての側面が強く、ホラーとして評価するのは難しい作品でした。アイドルファンにとっては貴重な映像かもしれませんが、ホラーファンが求めるような本格的な恐怖を味わうことは難しく、ちょっと残念な印象を受けました。ですが、人形の動きや登場シーンは中田秀夫監督らしい怖さの追求が見られますので、それだけでも観る価値はあると思います。ぜひご覧ください。