
中田秀夫監督作品ホラー映画特集:#6『怪談』
中田秀夫監督作品特集第6回目は2007年に公開された『怪談』です。この映画は、三遊亭圓朝の落語『真景累ヶ淵』を原作にした作品です。古典怪談である『真景累ヶ淵』は、全97章から成る落語(怪談噺)で、1日1時間演じても、15日間はかかると言われている大作。この映画はその中のほんの一部分を、中田秀夫監督独自の解釈と変更を加えながら、丁寧に作られた見応えのある映画となっています。
あらすじ:逃れられぬ呪いの運命
物語の主人公、煙草売りの新吉(尾上菊之助)は、若く美しい色男。彼はある日、浄瑠璃の師匠をしている豊志賀と出会い、燃えるような恋に落ちます。しかし、2人の出会いは決して偶然ではなかったのです。豊志賀と新吉の間には、おぞましくも悲しき過去の因縁がありました。
やがて、豊志賀の新吉への愛はいつしか異常なほどの独占欲に変わっていきます。ある日、豊志賀は新吉との小さなけんかで目に傷を負います。その傷が徐々に広がり、かつて美しく妖艶だった豊志賀の顔は醜く爛れてしまいました。豊志賀は新吉の心が離れていくのを感じます。豊志賀は「このあと女房を持てば必ずやとり殺す」と書き残して死んでしまいます。新吉は失意の中で、新しい人生を踏み出そうとするのですが、関わる女性たちは次々と悲劇的な運命を辿ってしまいます。これは豊志賀の呪いなのか、それとも過去の因縁か…。
尾上菊之助の新吉がはまり役!
尾上菊之助演じる新吉は、まさにこの役にぴったりの存在感を放っています。さすが、歌舞伎役者さんです。表情や所作、立ち居振る舞いが美しく、見ていて飽きません。映画の中の新吉は、結果的には豊志賀を裏切って、妻を持ってしまうのですが、不義理な男であるようには描かれていないように見えます。どちらかというと悲しい過去やダメな自分を振り切って、今度は良き夫や良き父親であろうとしているように見えます。それなのに、なぜか女性たちを不幸へと導いてしまう、という悲しい宿命(呪い)を背負っています。そのジレンマが見事に表現され、観客としても新吉に同情しながらも、彼を待つ結末に恐怖を感じてしまうのです。
黒木瞳の執念が生む恐怖
一方、新吉に強く執着する豊志賀を演じた黒木瞳の演技も素晴らしく、静かでありながらも燃え上がるような執念がひしひしと伝わってきます。彼女の怨念は死んでも消えず、まさにジャパニーズホラーの真骨頂とも言える恐ろしさを醸し出しています。派手な演出ではなく、静かで美しさの中に込める執念がじわじわと迫る恐怖となって、観る者の心を揺さぶります。
江戸の暮らしが丁寧に描かれる
本作で、私が好きなところは、江戸の町の風情をリアルに再現している点です。着物の質感や町並みのディテール、庶民の暮らしぶりまで、まるで当時にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。また、日本映画ならではの表情の演出が光り、言葉少なにしても情緒が伝わるシーンが多いのも印象的です。脇を固める役者さんたちの演技にも注目です。実はそうそうたる顔ぶれの皆さんが出演されている映画でした。
まとめ:じっくりと楽しむ和の恐怖
『怪談』は、日本の古典怪談をベースにしながらも、中田秀夫監督ならではのアレンジが光る作品です。江戸の美しい風景と、人間の情念が交錯する恐怖が見事に融合しており、ホラー好きにはたまらない一作でしょう。日本の古典ホラーを堪能したい方にはぜひおすすめです!