SNSで祭り上げられ、そして一気に地獄へ!──『ドリームシナリオ』の戦慄

ニコラス・ケイジ主演の新作スリラー『ドリームシナリオ』を観ました。一見平凡な大学教授が突如として世界中の人々の夢に現れるという奇妙な現象を描いた作品です。彼の身に起こる不可解な出来事は、やがて社会現象となり、そして思わぬ事態へと発展していきます。この映画は、現代のSNS社会に対する強烈な風刺とともに、人間の心理の暗部を鋭くえぐる作品となっていると感じました。

ニコラス・ケイジの怪演が光る

主人公の大学教授を演じるのはニコラス・ケイジ。彼は一見、地味で冴えない中年男性ですが、その内面には強い虚栄心と、有名になりたいという欲望が潜んでいます。自分でも意識していないうちに、彼の心の奥底にある黒い感情が周囲に、(特に彼の家族に)影響を及ぼしていく様子が描かれます。このような、表向きは平凡ながらも内面に複雑な感情を抱えたキャラクターを演じさせたら、ニコラス・ケイジの右に出る者はいないでしょう。彼の演技は、いつその感情が爆発するのかという不安を感じさせ、ある種の異様な雰囲気を醸し出しています。

SNS社会の風刺が効いたストーリー

物語はシンプルながら、非常に考えさせられるものです。ある日突然、人々の夢に登場することで主人公は一躍有名人となります。最初は英雄視されるものの、やがて人々の感情は一変し、彼は世界中から嫌われる存在になってしまいます。彼自身は何もしていないのにも関わらずです。この急激な変化は、まさに現代のSNS社会の縮図のようです。一瞬で脚光を浴び、一瞬でバッシングの対象になり、社会から排除される。そんな不安定で過酷な、現代の「評判経済」に警鐘を鳴らす作品といえるでしょう。

映画全体には説明のつかない不穏な空気が漂っており、観客は漠然とした恐怖を感じずにはいられません。直接的なホラー表現は少ないものの、人間の内面に潜む「集合的無意識」というものに得体の知れない恐怖を感じてしまいます。

制作陣にアリ・アスターの名前

本作の制作には『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』などで知られるアリ・アスター監督の名前がクレジットされており、これを見つけたときには、「なるほど~」と思わず納得でした。彼の作品に共通するのは、「じわじわとくる恐怖」、「家族や親しい関係の崩壊」、「日常と異常の曖昧さ」と言えるでしょう。本作もまさにその系譜に連なる作品であり、アリ・アスター監督らしさが随所に感じられます。

『ドリームシナリオ』は、単なるスリラー映画にとどまらず、SNS社会の歪みや、人間の承認欲求とそれに伴う恐怖を巧みに描いた作品です。ニコラス・ケイジの名演、現代的なテーマ、不気味な演出が融合したこの映画は、観る者に強い印象を残すこと間違いなしの作品でした!